こんにちは。筆者のma2ka(マニカ)です。
今回は登山する方にとっては知っておきたい高山病のメカニズムについて科学的に解説していきたいと思います。
一般的に標高の高い山に登った際に起こる諸症状が高山病ですが、うだうだと説明が長くなる前に先に結論を言うと、
高山病 =『酸欠』です。
もう少し付け加えて説明すると、酸欠によって引き起こされる各種症状(頭痛、耳鳴り、吐き気、集中力低下など)の事を言います。
それでは、なぜ標高が高い山に登ると酸欠になるのか? その理由を解説していきたいと思います。
酸欠とは?
高山病=酸欠と言いましたが、それでは酸欠とは一体どういうモノかについてご説明していきます。
通常、私たちが住んでいる地球上(ここでは海抜0mの地上とします)は、酸素濃度が約21%あります。
(ちなみに残りは窒素が78.1%、二酸化炭素が0.03%、その他アルゴンなどの元素が0.9%空気中に含まれています。)
上記のような環境で日々の生活をしているので、私たちの体は酸素濃度が21%の状態で脳や各種臓器、筋肉などが通常の働きをしてくれるように出来ています。
酸欠とは上記の酸素濃度21%の状態から徐々に濃度が薄くなった場合に起こる症状(厳密には酸素濃度16%以下)を指します。
具体的に酸素濃度が徐々に低くなった場合に体に起こる症状を下記の表にまとめました。
表1.各酸素濃度にて発生する酸欠の症状
段階 | 空気中の酸素濃度 | 各種症状 |
1 | 16~12% | 集中力低下、頭痛、耳鳴り、吐き気、脈拍・呼吸数の増加 |
2 | 14~9% | 怒りっぽくなる、異常な疲労感、判断力低下、嘔吐、全身脱力、チアノーゼ※1 |
3 | 10~6% | 嘔吐、大きな言葉を発せられなくなる、幻覚、意識喪失、全身けいれん、死の危険 |
4 | 6%以下 | 数回のあえぎ呼吸で失神、呼吸停止、心臓停止、けいれん、心臓停止、死に至る |
※1 チアノーゼ:呼吸した空気中の酸素濃度が低い場合、体の中で最も重要な『脳』に優先的に血液を送ろうとして、結果的に他の部分に血液が行き届かず、手先や唇などの末端が青白くなる症状。
上記の表1から、酸素濃度が16%以上では基本的には体内に異常反応は起こりませんが、酸素濃度が16%を切ってくると症状が出始めます(もちろん個人差はあります)。
ここまでの説明で酸素濃度が低くなると酸欠の各種症状が出てくる事が分かりました。
それでは、この酸欠の症状と登山で起こる高山病との関連性について次章でご説明したいと思います。
なぜ標高の高い山に登ると高山病になるのか?
前章で各酸素濃度での酸欠の症状についてご説明しましたが、この『酸素濃度』と『標高が高い』の両者に相関があります。
下の表は各標高での酸素濃度を示した表になります。
表2.各標高での酸素濃度と気圧の関係
標高 | 酸素濃度※1 | 気圧 |
0m | 21% | 1013 hPa |
1000m | 19% | 899 hPa |
2000m | 16% | 795 hPa |
3000m | 14% | 701 hPa |
4000m | 13% | 617 hPa |
5000m | 11% | 540 hPa |
6000m | 10% | 472 hPa |
7000m | 8% | 411 hPa |
8000m | 7% | 357 hPa |
9000m | 6% | 308 hPa |
10000m | 5% | 265 hPa |
※1:各標高での酸素濃度は海抜0m地点での酸素濃度に換算した値。
上記の表2をみると一目瞭然ですが、標高が高くなるほど酸素濃度が低くなる(空気が薄い)んですね!
この事は一般的に知られている事実ですし、多くの方はイメージがつくかと思いますが、もう少し深堀りして、なぜ標高が高くなると空気が薄くなるかについて解説したいと思います。
標高が高くなると空気が薄くなるメカニズムについて
なぜ標高が高くなると空気が薄くなるのか?ですが、海抜0mの地表上の空気は、標高の高い場所に比べて大気圧(空気から受ける圧力)が高い為、結果的に空気(酸素)自体も圧縮されていて濃度が高い状態(酸素濃度21%)となります。
ちなみに海抜0mの地点では1c㎡当り1㎏の力が体に加わっている事になります。
え?全身にそんなに力がかかっていたら潰れてしまわないの?と思うかもしれませんが、私たち生物は生まれた時からその大気圧の状態に晒されているので、その環境でも大丈夫なように体が順応しています。
一方、標高が高くなっていくと上空の大気全体から加わる圧力が小さくなる為、結果的に空気(酸素)自体が膨張して濃度が低い状態になります。
ざっくりの目安ですが、富士山の山頂の標高約4000m(正確には3776m)くらいまでは、標高が1000m高くなるたびに0.1気圧(100hPa)づつ気圧が下がります(上記の表2をご参照)。
このような空気の重さである大気圧の影響を受けて、標高が高くなると上空の空気量が海抜0mに比べると少なくなる為、結果的に気圧が低下=酸素濃度が低下するというメカニズムです。
エベレスト無酸素登頂できる理由は?
ここまでくると多くの方が疑問に思われると思いますが、標高が8848mのエベレストを始めとした世界の有名な山に酸素ボンベを使わずに無酸素登頂する登山家の方々がいます。
そういう登山家の方はなぜ酸欠=高山病にならないのか?という疑問が湧くかと思います。
標高約9000mでの酸素濃度は表2を見ると約6%!
え?数回呼吸したら心臓止まって死んでしまうやん!って思いますよねw!?
しかし、心配ご無用です。いや実際は無酸素登頂ってものすごい事なのですが、、、、。
標高のもの凄く高い山でも無酸素登頂できる理由ですが、人間の体に備わっている『高度順化』をうまいこと利用しているからです。
高度順化とは、標高が高くて酸素濃度が薄い環境にいると、徐々に血液中の赤血球数やヘモグロビンの量が増加し、酸素利用効率を高める酵素の働きが活発になり、また肺活量が増大して低酸素濃度状態でも生きていける状態になる事をいいます。
簡単にいうと、『酸素』を『車のガソリン』と仮定した場合、通常(海抜0mの平地)は燃費がそこそこな運転をしている車が、ガソリンの量が少なくなる(標高が高くて酸素濃度が低い状態になる)とECO運転モードに切り替わって燃費が良くなる運転をする事=高度順化です。
ちょっとマニアックな話をすると、呼吸して肺に取り込まれた酸素は肺の末端の肺胞で薄い膜を介して毛細血管中に取り込まれます。この時に毛細血管中のヘモグロビンが多いと少ない酸素を効率的に回収して体全体に運んでくれます。
※注意が必要なのは標高が高い山ほど高度順化するまでに時間を要します。エベレストなど登頂する登山家はベースキャンプで長期間滞在して高度順化しています。
高山病の予防方法・なった時の対処方法
簡潔にまとめると以下の通りです。(※注:あくまで日本の山を登る事を想定です)
・休憩をこまめにとりながら少しづつ標高を上げて登る。
・気分が悪くなった場合はそれ以上高度をあげずに直ちに休憩し、可能であれば標高を下げる。
この辺の情報は多くのサイトに記載されています。例えば下記の野中さんという方が書かれている記事が参考になったのでリンクします。
高山病を防ぐ20の心得――。重症化を防ぐことが一番の高山病対策です!
まとめ
という事で、今回は登山する方にとっては知っておきたい高山病のメカニズムについて科学的に解説させて頂きました。
高山病は酸欠によって発生する諸症状である事をご説明させて頂きましたが、今回の記事が登山される方のご参考に少しでもなれば幸いです。
余談ですが、私自身が学生時代にワンゲル部だったので、山の怖さを身を持って体験しています。
その一つに高山病がありますが、日本の山だからといって油断していたら痛い目にあうので、自分の体調を確認しながら無理なく登山しましょう♪
登山には様々な危険がある事を認識した上で事前の対策をしっかりしておけば、楽しい事がいっぱいなのでガッツリと満喫できるのではないでしょうか!?
早朝、テントから出た時の山の澄みきった空気、綺麗な雲海、360度パノラマの夜の星空、稜線上に広がる青い空!などなど、登山ってテンションあがりますよね♪
Have a nice climbing life !
長々と書きましたが、最後まで閲覧して頂きましてありがとうございました。
以上、今日はここまで。それでは~。
コメントを書く